今年描いた絵で2022年を振り返る-後編-

今年描いた絵で2022年を振り返る-後編-


今年描いた絵で2022年を振り返る、今回で最終編になります。前編・中編がまだな方は、こちらもチェックしてみてください。

坂の向こうの夏

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絵のことと直接関係はない話になるんですが、僕は絵のタイトルは出来るだけ簡素で、一単語で収まるなら一単語で収めるようにしていて、長めの文や、特にセリフ調などは絶対につけないことにしています。きっとSNS上などではそういったキャッチーなタイトルのほうが、反応が良いのは分かっていますが、そうやって限定詞を多用したり、タイトルで語りすぎたりすると、見ている人がその情報に引っ張られてしまって、せっかく絵という自由に解釈できる芸術作品に、偏った見方しかできなくなってしまう恐れがあるからです。僕はそういう世界になってほしくなく、鑑賞者が自由に想像して良い余地があってこそ、絵を見る文化だと思っており、作家が見せ方を強要するのは、はっきり言ってエゴだと思っています(絶対悪だとは言いませんが)。

前置きが長くなってしまいましたが、というわけで僕は絵のタイトルは極力シンプルにすることに徹しています。
が、この絵について、ちょっとタイトル媚びたな、と思うわけで…。これでも自分の基準だとアウトに近いセーフというか、恥ずかしいですよ、正直。
という思いを一旦この場で懺悔しておきます。

ただまあ、そういう身の懺悔話の一方で、この絵はすごく描いてて楽しかったというか。いわゆるパース基準が2つ存在していて、描いている途中で、両方が上手く噛み合ったときの気持ち良さが半端なかったです。

あと、この絵はもともと、夏コミで出す画集の表紙にする想定で描いていたので、描いている途中で、画集のロゴをどこに置こうか、という考える作業もあったりしました。こういうの考えるのも、楽しい。

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165bpm

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以前、モノクロで、それも走り描きでドラムセットを描いたことがあって、今度はちゃんとカラーで描きたないな、ということで再挑戦した絵です。
最初はこんな感じでラフをぼんやり描いてたんですが、

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だめだ、縦はカッコ悪い…。ということで横展開の構図で進めて行きました。ただ横構図だと演奏している瞬間というのは描けないな、と思い、開き直って、ちょっと休憩しているシーンということにしてみました。ちょっとドヤッとした表情、憎めない感じになってると良いんですが(笑)。

イニティウム

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Pixivだけ見ている人は、初めて見る絵かもしれません。こちらは『臨海ダイバー』などの人気曲ボーカロイド音楽を制作している、うみろさんに依頼を受けて描いた絵です。新曲『イニティウム』のMVとなっています。

これまで、既存のイラストをYouTube動画用にコンバートするお願いというのは、何度か経験があったのですが、今回はゼロからのお願いです。依頼が来たときは、嬉しくて二つ返事で引き受けたのですが、ここでちょっと動画のフォーマットにひとつ鬼門が待っていました。

意外と難しい横長の構図

通常、YouTubeの動画アスペクト比は16:9と、かなり横長で、この極端な横長の構図というのは、奥行きを作るのが一筋縄ではいかないからです。
どういうことか、まず縦長の絵を見て検証してみましょう。

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これは昔描いた絵になりますが、この絵はざっくり、

  • 近景 = 人物含めた手前側の空間
  • 中景 = 中間の空間
  • 遠景 = 奥の空間

と3つのレイヤーに分解することができます。

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わかりやすいように色で空間を分けてみると、こうなります。
それぞれ空間には役割があって、近景は絵の中の「主役」で、出来るだけハッキリかつ繊細に描くようにしています。中景は、どちらかというと「橋渡し」的なものですが、この層に描き込み量を多くすれば、全体の画面密度をグッと引き締めてくれる役割を持っていると思います。遠景は「抜け」部分です。ここはあまり描き込むのは避けて、余白を作るないし、筆致も力を抜いたほうが、全体的に窮屈感がなくなり、奥行きを作れます。
この絵についても、上側は、空の余白を残しておいて、すうぅと抜けていく感じを作っているわけです。

  • 近景 → 絵の中の主役。はっきりかつ繊細に
  • 中景 → 橋渡し。描き込むことで画面密度に締まりが出る
  • 遠景 → 抜け。余白を残して奥行きを出す

では、この絵を無理やり横長にトリミングしてみましょう。

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さっきと比べると、遠景の面積が減ってしまったせいで、抜け感がなくなり、窮屈な印象になってしまいます。

こんな感じで、横長は遠景の面積を稼ぐのが難しい構図なのです。
なら、お手上げなのかというと、そうではないです。この辺が絵を描く人の思考回路というべきか、目線の位置を変えてみることです。例えば、空の抜け感が画角に収まらない場合は、自分が地面スレスレまでしゃがんで見上げればいいわけで、こうすれば、奥行きのある絵作りができます。いわゆるアオリという構図です。

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アオリ構図にしたおかげで、近景・中景・遠景と、お互いの役割が上手く活かせることができます。
ちなみに飛行船はご本人からのオーダーです。飛行船なんて、ここ長い間ずっと見てなかったので、どういう感じだったっけ?とネットで調べたりしながら描いたのを覚えています。あと、今回は珍しく男性しか絵の中にいない!意図はYouTubeあたりの補足説明を見ていただければ分かるはずです。
うみろさん、ありがとうございました!個人的に、人生の大きな節目の記念に携われて、僕もとても嬉しいです。

Grieve

いよいよ今年のトリです。

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こちらも依頼を受けて描いた絵になります。エイベックスに所属している、シンガーソングライターさんの新曲、『Grieve』のMVとサブスク配信用のジャケットイラストとして、描かせていただきました。珀さんはアニメ『キングダム』のエンディング曲を作詞作曲、さらに歌っていたりと相当プロフェッショナルな方で(また歌声も素晴らしく綺麗!)、依頼のメールが届いたときは、ガチで驚きましたよ…。

今回の絵も、考え方はうみろさんのときと一緒で、横長の比率で奥行きを出す構図を考えるところからスタートしました。
今度は前回のイニティウムとは反対で、自分が高い所にいて、地上付近の物を細かく描いて奥行きを出す表現になっています。これも俯瞰(フカン)とよく言われている構図です。
幸いなことに、テーマが雪だったので(僕は結構雪景色描くの好きです)、雪と、少し退廃的な街並みという組み合わせがグッときたのか、思いもよらないくらい筆が走ったのは記憶に新しいです。

納品の際に、すごく喜んでもらえて、僕もすごくホッとしました。ありがとうございました!コミティア142にも来ていただいて感謝です。

ちなみに、この絵はちょっとカラクリがあって(カラクリっていうほどでもないんですけど)、動画の尺の中で、人物がいないシーンが存在するため、後ろの背景だけになる場面があります。ふつう手前の物に隠れてしまう箇所は、描き込まないので、虫喰い背景になるんですが、今回は後ろに隠れてる背景もきっちり描いたのが、ちょっと新鮮な体験でした。せっかくなので載せておきます。

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振り返ってみて

これでネットにアップした全ての絵の解説ができました。いや、疲れた(笑)。改めて説明を挿入して、振り返ると、充実感はすごいーー。ただ、個人的には反省点の多い一年で、というのも、ここ数年の中ではあまり数多く描けなかったということが、悔いの残る点でした。ちょっと8月あたりから息切れしてしまい、結構休める時間は多かったのにかかわらず、回復が遅くてもどかしい日々が続いていました。特に9月以降は仕事絵以外で全然描くことができず…、本当にそこだけが後悔です。
来年は反省を活かして、ペース配分と時間管理の工夫をして、今年より良い感じで絵をアップできたらと思っています。

では皆さん、良いお年を!来年もよろしくお願いします!


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